ネット住民とはなにか『鈴木さんにも分かるネットの未来』
川上量正『鈴木さんにも分かるネットの未来』を読みました。
タイトルが「鈴木さんにも分かるネットの未来」となっており、この鈴木さんとはスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーのことです。
本書を書くにあたって、鈴木プロデューサーから「ネットとはなにか、僕にも分かるように書いてくれ」という条件を出されたそうで、川上さんはとても苦労したそうです。
なんせ鈴木プロデューサーは、説明を求める割には飽きやすいという解説者泣かせの性格の持ち主らしいので。
ですが、そんな鈴木プロデューサーを飽きさせずに理解してもらうために、川上さんの多大な苦労の末書き上げたのが本書です。
『鈴木さんにも分かるネットの未来』の内容
ネットの住民とはなにかから始まり、ネット特有のコンテンツやビジネスモデル、プラットフォームなどネットビジネスの原理といったお硬い話があったと思えば、ネットが生み出すコンテンツということでニコニコ動画で流行っているものについて触れていたりもします。
その中から、私が興味を持った内容を少し紹介したいと思います。
ネット住民とはなにか
一章の「ネット住民とはなにか」の冒頭にこう書かれていました。
ぼくは、ネットを理解するためには、まずネットを利用している人には二種類の人種がいることを知るべきだと主張しています。ネットをツールとして使用する人か、ネットに住んでいる人かです。
この一文は、ネット文化を理解する上でとても重要だと思いませんか?
本書にも書かれていますが、ネットの炎上事件やSNSの使い方も、二種類の人種がいることを知るだけで理解がスムーズに進みます。
例えばネットの炎上事件は、モラルに反した行いで現実社会をネットに持ち込んだため、ネットを住処にしている方々が、彼らを敵と認定し攻撃すると著者は考察しています。
確かに、ネットで実名や顔出しをする文化はありませんから、根底ではネットとリアルの結びつきを嫌っているように感じます。
私はそれ以外にも、他人を攻撃するストレス解消ツールとして使っているのではと思いましたが、歪んだ正義感で赤の他人を罵ったり、リアルを特定して人生を狂わせようとしたりと、現実では考えられない過激な行動をするあたり、ストレス解消ツールの域を超えています。もしストレス解消や暇つぶしのつもりでやっているのなら、その人はネットに毒されています。
このような行動もネット住民はネットとリアルをはっきり区別しているからと考えると、現実社会をネット社会から追い出そうとする理由も見えてきます。
ただし、最近はネット内のリア充化というのも進み、リアルを充実させようと行動する人が現れ、リアルとネットを混在させたニコニコ大会議の反響をみると、現実とネットを区別する考え方は古くなりつつあります。
ネットの利用者が増加したため、ネットを住処にしている古参がマイノリティ化したともいえますが、物心ついたときからネットを使っていて、従来とは異なる考えを持つ世代が増えているのも事実です。
今後は、ネットで出会って会話してネットで結婚するというネトゲのような出来事が現実でも起こるのかもしれません。
別居婚と考えればありそうですが……少子化が加速しそうです。
既存のビジネスモデルをパクったネット
本書でもう一つ印象に残っているものは、現実世界のビジネスにネットを付けるだけで新たなビジネスモデルになるということです。
現実に存在しているビジネスのネット版という分かったような分からないような単純なアナロジーで、ビジネスモデルが簡単につくれる。そしてバーチャルなビジネスモデルができればリアルなお金が集ってしまう。
言われてみれば確かにそうです。はてなブログも日記をウェブ化しただけのものです。
新聞、雑誌などのオールドメディアに対するネットメディアという図式。広告代理店に対するネット広告代理店。証券会社に対するネット証券。銀行に対するネット銀行。ネット生保にネット電話にネットスーパーと、なんでもネットをつければ新しいビジネスモデルができるのです。
などなど。著者の言うとおり、なんでもネットを付ければ新しいビジネスモデルになっています。言い方が悪いですが、既存のビジネスモデルをパクれば新たなビジネスチャンスを見つけることができたでしょう。
ここまで簡単にビジネスモデルを作ることができた理由は、インターネット=安売りという式が提供者と消費者の双方に根付いたからです。
提供側は、現実社会でビジネスを行うよりも投資が少なく済むため参入しやすく、その分安価か無料で提供することができます。消費者側は、現実社会よりも安価か無料でサービスを受けることができるので非常にお手軽です。
この低価格で提供できる理由を双方が納得しメリットを感じているから、ビジネスとして成り立っているわけです。
しかし、インターネット=安売りという式で作ったビジネスモデルもいずれは限界を向かえます。既存のビジネスモデルを安価で提供するだけでは、客が寄ってこなくなってくるでしょう。市場によっては、もうなっているのかもしれません。
今後は安価以外の付加価値を付ける必要があります。もっとIT独自の付加価値を。
この付加価値を一番に見つけた人が将来のネット社会の先導者となり、歴史に名を残す偉大な人物となりますが、誰にも見つけられなければ著者の指摘通り、ネット社会は静かに終わりを迎えるでしょう。
終わりに
本書はドワンゴの川上さんから見たネットについて書かれており、とても分かりやすいです。
これまでのネットについてだけではなく今後の展望についても多く触れているので、本書と共にネットの将来に思考を広げてみると、より楽しめると思います。