日本の「労働」はなぜ違法がまかり通るのか?
『日本の「労働」はなぜ違法がまかり通るのか? (星海社新書)』を読みました。本書は、労働に関する本です。
いきなりですが、どうしてサービス残業など違法を平気で行うブラック企業が日本には多いのでしょうか?
ブラック企業を見分けられない若者が悪い?それとも今の政治が悪い?
答えは、労働者側の立ち向かう力が弱いからです。
労働者の立ち向かう力がなければ、企業側は好き勝手できます。どんなにサービス残業させても、訴えを起こす労働者はほとんどいません。
適法にやってコストをかけるより、違法なやった方が得だと考えている経営者が多いのです。
ある法務雑誌で経営者側に立つ弁護士がこう発言していたようです。
「実際問題、例えば100人解雇したとして、一体何人が訴えるか。
1人か2人は労基署に駆け込んだり訴訟を提起したりするかもしれませんが、そんなに訴える人は居ないものです。
訴えられても、きちんとした理由があり、手順を踏んでいればそう簡単に負けることはないですし、最悪、裁判で負けそうならば、給料2、3年分を払えば何とかなりますよという話です」
現在の日本では経営者側と労働者側のどちらが力を持っているのか、よくわかりますね。
経営者側が力を持っているから、違法が蔓延っているのです。
では、この立ち向かう力とは具体的にはどのような力なのか見てみましょう。立ち向かう力は大きく3つに分けることができます。
労働カウンセラーを頼る
労働問題が巻き起こったとき、個人的な話し合いで解決するのは難しいため、労働相談窓口に行き、労働カウンセラーを頼ることになるでしょう。相談先としてまっさきに浮かぶところは労基署ですね。
しかし、労基署に行ってもすぐさま解決はしないようです。
労働相談の現場では、労基署が行政指導を行っても、会社が従わないとそれ以上話が進展しないことがしばしばあるのが現実なのだ。
残業代を支払うように指導を行っても、企業によっては無視を決め込む。
このような企業に対して、監督官は家宅捜索や逮捕をすることはできますが、監督官自体が人手不足のため大企業や確実に立件できる証拠が整った案件に注力するようです。立件できるかわからない中小企業の労働問題には冷たいようです。
そこで労基署が頼りにならない場合、次は社労士や弁護士に相談することになります。しかし社労士や弁護士に頼る場合、人によって知識に差が出ますし、彼らもビジネスですので解決しやすい事件に力を入れているようです。
結局、労働カウンセラーに頼って解決できるのかどうかは、相談する人しだいです。
労働組合
一番頼るべき、労働カウンセラーは労働組合です。労働組合がどうして生まれたのか、その歴史を簡単に書きます。
19世紀、商品となった労働者は自分たちを経営者から保護するために労働法を国家に制定させました。
しかし、労働法を制定してすべてが解決したわけではありません。
この労働法が実質的な威力を発揮するには、当事者自身が経営者と実際に対等になり、交渉できる組織が必要となったのです。
その対等に交渉できる組織が労働組合です。
このように経営者と実際に対等になり、交渉できる組織が労働組合ですが、日本の労働組合はその役割を充分に果たせていません。それどころか中小企業には労働組合がないところがほとんどです。
労働組合の役割について著者も以下のように主張しています。
本来、労働組合は、労使の対等性を確保することで、市民社会の原則を修正・実現し、長時間労働や貧困労働を抑止する。これによって、労働市場=市場社会そのものを存立させるという、極めて重大な使命を帯びているのだ。
けっして、社員の「賃上げ」だけが使命なのではない。
労働組合がなくなっていくことは、労働者の権利が弱まっていくと言っても過言ではありません。
日本には企業別労働組合だけでなく、産業別、地域別といった合同労働組合もあります。労働の権利は、昔から人々のつながりによって主張しているので、これらも活用することで変わっていくのではないでしょうか。
本人の気持ち
現在の日本では、労使関係に対して「何もしない」ことが主流です。
しかし、こうした労使問題は、国が解決するものではなく労働者が行動することで解決するものです。契約違反があっても、行動しなければ法は執行されません。
一番大切なのは、何よりも自分自身の「争う気概」です。
争う気概のある人とそうでない人とで、大きな差が出てくる。
「強い人」は最後まで自分の権利を主張できるかもしれないが、「普通の人」にはそれができないかもしれない。
カウンセラーも多くは、戦う気概のある人間を援助しているようです。
その理由は、労使問題はあくまで当事者の問題であるからです。何事も共通していますが、本人にやる気がなければ周りがいくらサポートしても無駄になってしまいます。
終わりに
今、日本に違法がまかり通っているのは、戦う気概がない労働者が増え、法を犯す経営者を咎める人間が少なくなったからかもしれません。
一人ひとりが日本の労働環境を異様だと気づき、変えるために団結することが日本の労働問題を解決する一歩になるはずです。難しいことかもしれませんが、労働問題が少しでも無くなる世の中になることを願っています。